労働基準法解説 ~第25条(非常時払)~

第25条(非常時払)
1 使用者は、労働者が出産、疾病、災害その他厚生労働省令で定める非常の場合の費用に充てるために請求する場合においては、支払期日前であつても、既往の労働に対する賃金を支払わなければならない。

労働基準法第25条(非常時払)は、労働者が予期せぬ出費を迫られる緊急事態において、生活資金を確保するための「給料の前倒し支払い」を保障する条文です。

1. 制度の概要

通常、賃金は「毎月1回以上、一定の期日(給料日)」に支払われます(賃金支払いの5原則)。しかし、労働者に緊急の出費が必要となった場合、給料日を待っていては生活が脅かされる可能性があります。この条文は、「緊急時には、給料日が来る前であっても、すでに働いた分のお給料をすぐに払わなけれなばらないこと」と使用者に義務付けています。

2. 対象となる「非常の場合」とは?

単に「生活が苦しいから」「遊ぶ金が欲しいから」という理由では請求できません。条文および厚生労働省令(労働基準法施行規則第9条)により、以下の具体的なケースが定められています。これらは、労働者本人だけでなく、労働者の収入によって生計を維持している者(家族など)に発生した場合も対象となります。
・出産(本人または家族が産む場合)
・疾病(病気にかかった場合)
・災害(地震、火事、水害などに遭った場合)
・結婚
・死亡
・やむを得ない事由による1週間以内の帰郷

3. 支払われる金額の範囲(重要)

請求できるのは「既往の労働」に対する賃金のみです。
・できること: 給与計算期間の途中であっても、「今日までにすでに働いた日数分」の給料を支払ってもらうこと。
・できないこと: まだ働いていない将来の分(給料の前借り・借金)を請求すること。
【例】 給料日が毎月25日の会社で、10日に緊急事態が発生した場合。
   1日〜10日までの「すでに働いた10日分」の給料をすぐに請求できます。
   月給の全額(未就労の月給部分)を請求できるわけではありません。

4. 使用者の義務と支払い時期

労働者からこの権利に基づいた請求があった場合、使用者は拒否できません(義務)。 就業規則で「給料の前払いは一切しない」と定めていても、法律が優先されるため、支払う必要があります。

5. 罰則

使用者がこの規定に違反して支払いを行わなかった場合、30万円以下の罰金が科される可能性があります(労基法120条1号)。