障害年金に「初診日の壁」

障害年金の申請において、病気やケガで初めて医師の診察を受けた日である「初診日」の証明が原則必須ですが、この証明が難しく、年金を受給できないケースが後を絶ちません。特に、心身の不調から診断確定までに時間がかかり、当時の医療記録(カルテなど)が病院の保管義務期間(法律上5年間)を過ぎて処分されてしまうことが主な原因です。

東京都の50代男性は、2000年に不調を感じて受診するも「異常なし」。その後、統合失調症を発症し、2003年に確定診断を受けました。経済的困窮から2020年に障害年金を申請しましたが、2000年の初診日が証明できず「不支給」に。病院には2000年7月の受診記録はあったものの、診察内容を示すカルテが処分されていたため、「統合失調症との関連が証明できない」と判断されました。不服申し立ても認められず、男性は2023年に提訴。2024年4月、東京地裁は2000年7月を初診日と認め、国に受給を命じました。裁判は当事者にとって大きな負担となります。

厚生労働省の2023年度統計では、初診日不明を理由に却下された障害年金申請は1209件と全体の1%以下ですが、実際には窓口で申請を断念する「門前払い」のケースも多く、実態はさらに深刻だと指摘されています。国は2015年に友人や民生委員の書面での証明を、2021年には一部疾患で初診日認定基準を緩和しましたが、問題は依然として続いています。専門家は障害年金が国民の権利であるとし、初診日が分からなくても一定の障害があれば受給できるよう、制度の見直しを求めています。

(出典)朝日新聞デジタル2025年7月16日記事