名称ではなく実態判断を
労働基準法第37条(時間外、休日及び深夜の割増賃金)5項は、割増賃金の基礎となる賃金に、①家族手当、②通勤手当と、その他厚生労働省令で定める賃金は算入しないと定めている。同条の規定を受け、労働基準法施行規則第21条は、③別居手当、④子女教育手当、⑤住宅手当、⑥臨時に支払われた賃金、⑦1カ月を超える期間ごとに支払われる賃金の5つについて、割増賃金算定基礎から除外できると定めている。これらの除外可能な賃金・手当は限定列挙であり、7つに該当しない場合はすべて算定基礎に含めなければならない。
除外が可能かどうかは、手当の名称ではなく実態で判断される。住宅手当については、通達(平11・3・31基発170号)により、「住宅に要する費用に応じて算定される手当をいう」とされている。住宅に要する費用とは、賃貸住宅は賃料、持ち家は購入・管理費用を指す。費用に応じた算定とは、費用に定率を掛けた額とすることや、費用を段階的に区分し、費用の増額にしたがって手当の額を多くするものをいう。住宅に要する費用にかかわらず一律・定額で支給される手当は住宅手当に当たらない。したがって、算定基礎から除外する場合は、住宅手当を「住宅費の60%」や、「住宅費が10万円までは5万円、20万円までは10万円」などとしなければならない。
王子労基署は都内の私立大学法人に対し、定額支給の住宅手当を割増賃金の算定基礎に含めていなかったとして、是正勧告した。算定基礎に入れなかった結果、1時間当たりの賃金が低くなり、未払い賃金が生じているという。同法人は未払い総額や人数を現在精査中としているが、未払い額は年間で1800万円に上るとの報道もある。同法人は未払い額を約6年間遡って支給するとしているため、必要な拠出額は1億円以上になると見込まれる。
同法人では世帯主かつ扶養家族のある職員に月2万2300円、その他の職員に月1万7500円の住宅手当を支給していた。前掲通達が住宅手当に当たらない例として掲げる、「住宅以外の要素に応じて定率又は定額で支給することとされているもの。例えば、扶養家族がある者には2万円、扶養家族がない者には1万円を支給することとされているようなもの」に該当すると判断されたとみられる。現在定額の住宅手当を支給し、算定基礎から除いている企業は、早急に運用を改めるべきだろう。
労働政策研究・研修機構が3月に公表した「福利厚生に関する労働者調査」によると、正社員が必要だと思う福利厚生制度・施策は「家賃補助や住宅手当の支給」が38.8%でトップとなった。非正社員を含めた結果でも32.6%と、「人間ドック受診の補助」(38.8%)、「慶弔見舞金制度」(33.8%)に次いで3番目に多い。
年齢階級別にみると、10歳代が20.0%、20歳代が33.7%、30歳代が37.1%、40歳代が33.2%、50歳代が33.5%、60歳代が28.4%と、幅広い年齢層にニーズがあることが分かる。本紙10面連載の「人材難時代の福利厚生」で山梨大学の西久保浩二名誉教授も、複数の内定を得ている学生が入社先を決定する1番の要因は、「住宅支援」であると述べている
人材採用に向けた1つの「正解」として注目を集める住宅手当。支給に当たっては改めて法令をよく確認したい。東京・王子労働基準監督署は、都内の私立大学法人に対し、住宅手当を割増賃金の算定基礎に含めていなかったとして是正勧告を行った。同法人の住宅手当は世帯主か否かや扶養家族の有無に応じた定額支給であり、住宅費に応じた手当とは認められず、除外要件を満たさないと判断された。このため労働基準法第37条違反とされ、未払い賃金の支払いが求められた。また、月平均所定労働時間の算出にも誤りがあり、土曜の短時間勤務を平日と同様に扱った結果、時間単価が低く算定されていた。法人は規程を改定し、住宅手当を算定基礎に含めるとともに、過去分の差額を遡及して支払う方針としている。
(出典)2026年4月28日 労働新聞 今週の視点
(関連ブログ)基礎除外へ是正勧告 定額住宅手当の割増で 王子労基署

