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1.182020
遺族年金の仕組み ~遺族基礎年金と遺族厚生年金の違い③~
目 次
ケース別の遺族年金支給種別
では、ある家族をモデルにして、いったいどのような遺族年金が支給されるのか比較してみます。
家族構成により受給できる遺族年金の比較
まずは基本的な家族構成である、夫婦+子の家族構成で比較します。次の4パターンで比較します。※受給にかかる諸要件は全て満たされていると仮定します。
夫婦+子のパターン
①Aさん夫婦(夫(会社員)妻(専業主婦)子(18歳年度末前))
②Bさん夫婦(夫(会社員)+妻(会社員)子(18歳年度末前))
③Cさん夫婦(夫(自営業)+妻(会社員)子(18歳年度末前))
④Dさん夫婦(夫(自営業)+妻(自営業)子(18歳年度末前))
実際には夫婦各々の年齢、子供の年齢、保険料納付要件、生計維持要件など、受給にかかる要件が複雑に組み合わされて、どの年金が支給されるのかが決定されますが、基本には、死亡した者がそれまでどの年金に加入してきたのかによって、支給される遺族年金に差が生じます。自営業者や専業主婦などの国民年金1、3号被保険者が亡くなった場合は、遺族基礎年金しか支給されませんが、会社員などの国民年金2号被保険者が亡くなった場合は、遺族基礎年金と遺族厚生年金の両方の支給を受けることができます。
なお、遺族基礎年金は「子が18歳年度末」を過ぎた時に、受給権を失います。
夫婦のみのパターン
①Aさん夫婦(夫(会社員)妻(専業主婦))
②Bさん夫婦(夫(会社員)+妻(会社員))
③Cさん夫婦(夫(自営業)+妻(会社員))
④Dさん夫婦(夫(自営業)+妻(自営業))
子がいない夫婦の場合(または18歳年度末以上の子がある場合も同じ)、遺族基礎年金の受給権はありません。遺族基礎年金は子育て年金と言われ、18歳年度末までの子がいる間しか支給されません。自営業者や専業主婦などの国民年金1、3号被保険者が亡くなった場合は遺族年金としての支給が無くなり、会社員などの国民年金2号被保険者が亡くなった場合は、遺族厚生年金のみ支給を受けることができます。なお、ここでは年金の各種加算は考慮しません。
夫婦の年齢により受給できる遺族年金の比較
男性にのみ55歳以上の年齢制限あり
次に、夫婦の年齢により比較します。※受給にかかる諸要件は全て満たされていると仮定します。なお、遺族基礎年金には男女の年齢による差別はありませんので、今回は比較対象から除外します。遺族厚生年金には男女の年齢による差別がありますので、今回は夫婦共働き(2人とも国民年金2号被保険者)として比較します。
①Aさん夫婦(夫50歳 妻45歳)
②Bさん夫婦(夫55歳 妻45歳)
③Cさん夫婦(夫45歳 妻50歳)
④Dさん夫婦(夫45歳 妻55歳)
夫が死亡した場合、妻に支給される遺族厚生年金には原則として年齢制限はありません。(※)しかし妻が死亡した場合、夫には妻死亡時に55歳以上である必要があります。また55歳以上の夫であっても、実際に遺族厚生年金を受け取ることができるのは、夫が60歳に到達してからとなり、男女の年齢差別が存在しています。(※)夫の死亡時に30歳未満で子の無い妻は5年有期の遺族厚生年金を受給することになります。
夫が妻に先立たれた場合、妻が厚生年金加入中であったとしても、夫の年齢によっては遺族厚生年金が支給されません。この点の差を理解したうえで、妻の死亡保険金を手厚くするなどのライフプランが必要になってきます。
遺族厚生年金のまとめ
年齢要件のまとめ
受給権者 | 年齢要件 |
妻 | 年齢要件はなく何歳であっても受給することができる |
子・孫 | 18歳年度末前にある子・孫が受給することができる(障害等級1、2級に該当する場合は20歳前) |
夫・父母・祖父母 | 被保険者の死亡時に55歳以上である年齢制限あり(受給開始年齢は60歳) |
受給期間のまとめ
▽夫の死亡時30歳以上もしくは子のある妻は一生涯
▽夫の死亡時30歳未満の妻で、子がいないときは5年間の有期
▽障害等級(1、2級)に該当しない子と孫は18歳年度末前まで
▽障害等級(1、2級)に該当する子と孫は20歳前まで
▽夫、父母、祖父母は60歳から一生涯
※再婚ほか、権利消滅の要件に該当した場合は上記の限りではありません。
遺族厚生年金の受給年齢の男女差について
遺族厚生年金で男女に受給年齢の差があることが、憲法14条「法の下の平等」に違反するとして争われました。確かに平成26年4月1日より前では、遺族基礎年金は「子のある妻(または子)」が受給権者とされていました。しかし、法改正により平成26年4月1日以降は「子のある配偶者(または子)」とされ、男女格差は撤廃されています。
しかし、遺族厚生年金では依然として男女で受給年齢に格差が設けられたままの状態であり、この点が争われたのですが、最高裁で次の通り判決が下りています。
(判決の要旨) 遺族補償年金制度は、憲法25条の趣旨を実現するために設けられた社会保障の性格を有する制度であり、男女間における労働力人口の割合の違い、平均的な賃金額の格差及び一般的な雇用形態の違い等から、夫についてのみ一定の年齢に達していることを受給の要件としても憲法14条1項には反しないとした。平成29年3月21日 最高裁第三小法廷判決 |
結局、遺族厚生年金における男女の受給年齢の格差は、不合理ではないとして請求は棄却されました。年金財政の問題も複雑に絡んだうえでの判決でしょうが、いずれは遺族基礎年金と同様に男女格差は廃止される方向に進むのではないかと、個人的には考えています。
(その4に続く)