第38条(時間計算)
1 労働時間は、事業場を異にする場合においても、労働時間に関する規定の適用については通算する。
② 坑内労働については、労働者が坑口に入つた時刻から坑口を出た時刻までの時間を、休憩時間を含め労働時間とみなす。但し、この場合においては、第三十四条第二項及び第三項の休憩に関する規定は適用しない。
本条は、労働時間の計算方法に関する大原則と、特殊な環境下における特例を定めた条文です。
1. 事業場を異にする場合の「労働時間通算」の原則(第1項)
第1項は、同一の労働者が複数の事業場(働く場所)で労働する場合、それらの労働時間をすべて合算(通算)して、労働基準法の規制(1日8時間・週40時間など)を適用するという原則を定めています。
ここでの「事業場を異にする場合」には、以下の2パターンが含まれます。
①事業主が異なる場合(副業・兼業): 本業としてA社で働き、終業後や休日に副業としてB社(他企業)で働くケース。
②同一企業内の別事業場: 午前はA支店で働き、午後はB支店で働くケース。
実務上、最もトラブルになりやすいのが「事業主が異なる場合」の労働時間の通算です。労働基準法上の労働時間は、企業という枠組みを超えて通算されるのが大原則です。通算した結果、法定労働時間(1日8時間・週40時間)を超過した場合、その超過分は「時間外労働」となり、割増賃金(25%以上)の支払い義務が生じます。この場合、「どちらの企業が割増賃金を支払うのか」については、厚生労働省のガイドラインにより以下のように整理されています。
【具体的な計算例】
本業(A社): 所定労働時間1日6時間
副業(B社): 所定労働時間 1日3時間
労働者がA社での勤務後に、Bで働いたとします。 通算労働時間は「6時間 +3時間 =9時間」となり、法定労働時間の8時間を1時間超過します。
この超過した1時間分の割増賃金は、原則として「後から労働契約を締結した企業(多くの場合は副業先であるB社)」に支払い義務が発生します。B社は、自社での労働時間は3時間のみであっても、「Aで既に6時間働いていること」を把握した上で、法定労働時間を超える1時間分について割増賃金を支払わなければなりません。
企業が従業員の副業を許可する場合、あるいは副業人材を受け入れる場合は、労働者の自己申告等により「他社での労働時間」を正確に把握し、自社の労働時間と通算して適切に賃金計算を行う労務管理体制が不可欠です。
2. 坑内労働における時間計算の特例(第2項)
第2項は、鉱山などの「坑内労働(地下での労働)」に関する時間計算の特例です。一般的な労働では、休憩時間は労働時間から除外されます(労基法第34条)。しかし坑内労働においては、「坑口(入り口)に入ってから、坑口を出るまでのすべての時間を、休憩時間も含めて丸ごと労働時間とみなす」と規定しています。
【特例が設けられている背景】 坑内という特殊かつ閉鎖的な環境下では、たとえ作業の手を止めて休憩していたとしても、落盤などの危険と常に隣り合わせであり、労働者は業務の緊張感から完全に解放されているとは言えません。そのため、通常の休憩ルールの適用(一斉に付与することや、自由に利用させること)を除外し、地下に滞在する全時間を労働時間としてカウントすることで、労働者の心身を保護しています。
現代の一般的なオフィスワーカーやサービス業においては直接関わりのない条文ですが、労働基準法が「労働者の安全と健康」をいかに重視して作られているかを示す、歴史的意義の深い規定です。
労働基準法第38条は、単なる時間計算のルールにとどまらず、企業に「従業員の総労働時間を把握し、過重労働を防ぐ義務」を課しています。働き方の多様化が進む現代においては、他社での労働時間も視野に入れた包括的な労務管理が求められています。