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相続の手引き9_相続の単純承認・限定承認・相続放棄

相続開始後にする最初の決断(熟慮期間3か月

相続が始まって最初にしなければならない決断は、遺産を相続するのか、しないのかという判断です。
この決断は、次の3つの手続きから選択してする必要があります。
①(相続の)単純承認
②(相続の)限定承認
③(相続の)相続放棄
この決断をする期間が民法915条に法定されているのですが、とにかく相続が始まってからあっと言う間にやってきます。

(相続の承認又は放棄をすべき期間)
第九百十五条 相続人は、自己のために相続の開始があったことを知った時から三箇月以内に、相続について、単純若しくは限定の承認又は放棄をしなければならない。ただし、この期間は、利害関係人又は検察官の請求によって、家庭裁判所において伸長することができる。
第二項(省略)

上記3つの手続きからの選択は、自己のために相続の開始があったことを知った時から3か月以内に、しなければなりません。
わかりにくいのでもう少し解説します。

自己のために相続があったことを知った日とは

相続人である自分が、その被相続人の死亡を現実に知った日のことです。
相続人が数人いた場合、各相続人によって知り得た日が異なるのが普通です。
そんな時は、各相続人で別々の日が知った日となり、3か月の起算日はバラバラとなります。

自己のために相続があったことを知った時の意義

この条件を満たすためには、相続人が以下の2点の両方の事実を知ることが要件とされています。
①被相続人が死亡したことを知る
②その死亡により自分が相続人となったことを知る

日頃から家族と連絡が取り合える距離感であれば、死亡から間が無く「相続の開始を知る」でしょう。
しかし、音信不通の相続人の場合、何年も知り得ないという事もあり得る話です。

単純承認・限定承認・相続放棄とは何か

では、単純承認、限定承認、相続放棄、それぞれの意義を説明します。

単純承認

被相続人が残した相続財産をプラスもマイナスもすべて包括して、無限に譲り受けること。
<具体的手続>
相続の開始があったことを知ってから3か月以内に、何も手続きをしなければ、単純承認したとみなされます

限定承認

相続時にプラスとマイナスの財産、どちらが多いかわからない場合などに選択される手続きです。
プラス財産の範囲内でマイナス財産を譲り受けるため、マイナス財産は有限の相続となり、借金を負う心配がなくなります。
<具体的手続>
限定承認を選択するためには、相続の開始があったことを知ってから3か月以内に、家庭裁判所に対して
「限定承認の申述」をする必要があります。
<注意点>
限定承認をする場合、相続人全員が行う必要があります。
一部の相続人のみで限定承認をすることはできませんので、注意してください。
出典:家庭裁判所 限定承認の申述

相続放棄

相続時にプラスよりマイナスの財産が多いことが、あらかじめわかっている場合などに選択される手続きです。
初めから相続人でなかったものとみなされ、相続に関する一切のプラス、マイナスの財産を放棄することとなります。
<具体的手続>
相続放棄を選択するためには、相続の開始があったことを知ってから3か月以内に、家庭裁判所に対して
「相続放棄の申述」をする必要があります。
<注意点>
一度相続放棄を申述してしまうと、その後相続放棄を取消すことは一切できません、手続きは慎重にする必要があります。
相続放棄の手続きは、相続人のうち単独ででもすることができます。
出典:家庭裁判所 相続放棄の申述

法定単純承認の問題

民法には、法的安定性を担保するため、ある一定の行為をした場合に当然に単純承認したとみなす規定があります。
これを「法定単純承認」と言いますが、実務上、裁判所の判例解釈に委ねられており注意が必要です。
単純承認したつもりは無かったのに、単純承認とみなされ、負債を背負うなんてことになりかねません。

(法定単純承認)
第九百二十一条 次に掲げる場合には、相続人は、単純承認をしたものとみなす。
一 相続人が相続財産の全部又は一部を処分したとき。ただし、保存行為及び第六百二条に定める期間を超えない賃貸をすることは、この限りでない。
二 相続人が第九百十五条第一項の期間内に限定承認又は相続の放棄をしなかったとき。
三 相続人が、限定承認又は相続の放棄をした後であっても、相続財産の全部若しくは一部を隠匿し、私にこれを消費し、又は悪意でこれを相続財産の目録中に記載しなかったとき。ただし、その相続人が相続の放棄をしたことによって相続人となった者が相続の承認をした後は、この限りでない。

相続人による相続財産の処分行為(民法921条1項)

実務上は、ほとんどの単純承認が相続財産の処分行為によるものです。
相続財産の全部または一部を処分した場合、単純承認事由となります。マイナス財産があって相続放棄するつもりなら、
プラスの財産には手を付けてはならないということです。

熟慮期間経過(民法921条2項)

自己のために相続の開始があったことを知った時から三箇月以内に、限定承認または相続放棄をしなかった時は、単純承認したものとみなされます。

限定承認・相続放棄後の背信的行為(民法921条3項)

家庭裁判所に限定承認、相続放棄の申述をしたにも関わらず、相続財産を隠したり消費するなど、他の相続人や
利害関係者に損害を与えることをした場合も、単純承認したものとみなされます。

単純承認、限定承認、相続放棄の決断をするためには、それまでにしっかり相続財産の調査を済ませ、たとえ概算でも評価して、
決断するに足る検討材料を準備しておくことが重要です。
また単純承認を除き、家庭裁判所への申述手続きも必要となります。
スムーズに手続きができるように、専門家のアドバイスを受けるなどして準備することも大切です。

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