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障害年金の基礎知識④ 〜医学的治癒と社会的治癒〜

医学的治癒

医学的治癒とは、医学的にその傷病が完全に治ることを言います。
過去の傷病が医学的に治癒したとみなされた後、再び同じ傷病が発症した場合、それはたとえ同じ傷病であったとしても前後の傷病は別ものとして扱われます。この状態は傷病の再発とされ、後発の傷病による障害年金申請での初診日は、当該後発傷病により初めて医師の診療を受けた日が初診日となります。
一方で、過去の傷病が医学的に治癒していない場合、この状態は傷病の継続とされ前後の傷病は同一と扱われます。前後は継続していることから、障害年金申請の初診日は原発の傷病で初めて医師の診療を受けた日となります。
なお、医学的には治癒していないと認められる場合であっても、後述する社会的治癒が認められた場合は、前後の傷病は別ものとして扱われ傷病の再発とされます。

再発時の保険料納付要件

別の傷病とされる再発の場合、再発時の障害年金申請にあたっては、再発傷病で初診日要件とともに保険料納付要件を満たすことが求められます。

なお、平成6年の法改正前は、障害基礎年金等の受給権者が厚生年金保険法の障害等級の3級以上に該当しなくなってから3年を経過すると、その受給権は消滅する取り扱いとなっていたが、改正により、65歳に達するまでの間は、受給権は消滅せず支給停止することに改められた。これに伴い、再度障害等級に該当する重症となったとしても、新たな保険料納付要件は必要とされない扱いになっています。

社会的治癒

社会的治癒とは医学的な治癒とは異なり、あくまでも障害年金制度上の概念であり、医学上の概念ではないことに注意が必要です。
社会的治癒とは、医療行為を行う必要がなくなり社会復帰していることを言います。一般にいわゆる社会復帰を果たし労働に従事している場合であっても、薬事下(投薬治療の継続中)または療養所内にいる時は社会的治癒とは認められません。
その傷病が医学的には治癒に至っていなくても、自覚的・他覚的(特に医師)により病変や異常が認められず、社会復帰を果たし、投薬治療が無い状態が一定期間継続し(精神疾患ではおおむね5年程度以上、傷病によっては10年程度以上)、その間普通の生活を送ることができていた場合は、社会的治癒があったとされ、再発後の受診日が初診日と扱われることになります。

社会的治癒の判断にあたっては、診断書における医師の判断と病歴就労状況等申立書(本人による申立書)を参考にして決められるが、一般就労が即社会的治癒とされることではなく、就労していてもその際の診療状況や投薬状況などを総合的に判断して決められる。なお、本人の意思で勝手に治療を中断して就労再開しているようなケースでは、その中断期間がいくら長かったとしても社会的治癒は認めされない。

社会的治癒の判断基準

・症状が固定し、医療を行う必要がなくなったとき
・長期間(精神疾患ではおおむね5年程度以上、傷病によっては10年程度以上)にわたり、自覚的、他覚的に病変や異常が認められないこと
・一定期間、普通に生活または就労していること

社会的治癒は被保険者救済のための法理

社会的治癒の適用に関する社会保険審査会では、次の通り見解が示されている。

社会的治癒は、傷病の治癒に関する一般人の素朴な感覚を尊重し、これに基づいて初診日の設定を行うことにより、保険給付の充実を図ろうとするものであって、いわば被保険者の救済のために考え出された法理である。その法律の特性から、保険者側から社会的治癒の法理を持ち出して、保険給付をしないための論理とすることはできないと解すべきである。このように解しても、被保険者と保険者とは互換性のある立場に立つものではないから、不公平とはならないであろう。

つまり社会的治癒は、初診日要件などの受給要件について被保険者に便宜をはかるための、障害年金制度上の法理であるから、圧倒的に優位な立場である保険者(政府)からこの法理を持ち出すことはできないとされています。ただし、実際には不支給の理由として保険者側から社会的治癒が示されるケースもあるようです。

医学的に治癒していないという事は傷病は継続しているのであって、「原発時に初めて医師の診療を受けた日が初診日」との原則は変わりません。社会的治癒は被保険者の救済のための法理です、この法理を使うことで有利に請求することができるのであれば検討する必要はありますが、あくまでも原則があっての特例です、認められるためには前述の判断基準を明確に証明する必要があることは言うまでもありません。

~その⑤に続く~

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