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相続の手引き15_相続放棄の実際

相続放棄の実際

相続放棄の問題は、これまでも「相続の手引き」で度々採り上げてきました。
リンク:相続の手引き1314
相続人は、相続開始の時から、被相続人の財産に属した一切の権利義務を承継する。(民法896条前段)
とあるように、相続人には相続財産に属したプラスの財産、マイナスの財産すべてが引き継がれます。

もしマイナスの財産のほうが多ければ、あなたは被相続人に代わり、将来弁済しなればなりません。
相続時に何も手を打たなかったために、知らずに負債を相続してしまったというような事態を避けるためにも、
相続放棄について理解してください。

相続放棄の件数推移

2000年以降の死亡者数と相続放棄の件数推移をグラフ化しました。
死亡者数は2003年に年間100万人を超えた後も右肩上がりに増加し続け、直近では年間で約140万人弱の方が亡くなっています。
相続放棄は、裁判所に申し立てられた相続放棄の申述件数ですが、
2000年は年間で約10万件でしたが直近では年間で約20万件と、件数は少ないもののこの20年で件数は倍増しています。
日本は死亡者のうち遺言書を書き残す割合が約10%前後だと言わていますが、相続放棄の件数のほうが最近では多いのが現状です。
相続放棄の件数が増えるという事は、借金を残して亡くなる方の存在がある訳で、件数増加は必ずしも社会的に好ましいことではありません。
ただし、相続放棄には相続による望まない負債を防ぐ効果もあり、セーフティーネットとしての意義は大きいと思います。
そして、法律を知らなかったために、相続時に選択ミスをして借金を背負う不幸は避けたいところです。

相続放棄の機会を逸する原因

相続財産の調査が甘い(負債の見逃し)

負債も相続するとの認識が甘く、つい相続財産の調査も負債に関しては甘くなる傾向があります。
さらに、被相続人が債務者のケース以外にも、他人の負債の保証人となっているケースもあるので注意が必要です。
保証債務は、債務者がきちんと返済する間は表面化することはありませんが、返済できないとき初めて現れます。
亡くなって数年経とうが、保証債務が相続されている以上、あなたには保証債務の返済義務があります。

熟慮期間(3か月)の無知

相続放棄をするためには、相続開始から3か月間以内に、家庭裁判所に相続放棄の申述の申立手続きをしなければなりません。
この手続きをしなければ相続放棄は成立せず、相続放棄も、限定承認も(相続の手引き9参照)されなかった時は、
単純承認したものとみなされます。
単純承認とは、相続の原則どおり「被相続人の財産に属した一切の権利義務を承継する」ことです。
相続開始から3か月は、本当にあっと言う間です、重い判断をするには短かすぎる気もしますが、法律で決まっておりやむを得ません。
相続から3か月間、何もせずその状態を放置すると単純承認とみなされる、という事をしっかり覚えてください。

負債の遺産分割リスクの理解不足

負債を相続した場合、負債の遺産分割はできないこともあまり理解されていません。
負債を遺産分割しても、それはあくまで相続人間でのみ有効な事に過ぎず、債権者に対して遺産分割を主張(対抗)することはできません。
以下の最高裁判例にあるとおり、金銭債務は当然に(相続人に)分割され、各相続人がその相続分(法定相続分)で承継する、とあります。

≪最高裁昭和34年6月19日判決≫・・一部抜粋
連帯債務は,数人の債務者が同一内容の給付につき各独立に全部の給付をなすべき債務を負担しているのであり,各債務は債権の確保及び満足という共同の目的を達する手段として相互に関連結合しているが,なお,可分なること通常の金銭債務と同様である。ところで,債務者が死亡し,相続人が数人ある場合に,被相続人の金銭債務その他の可分債務は,法律上当然分割され,各共同相続人がその相続分に応じてこれを承継するものと解すべきである

遺産分割の結果、自分は負債を負担しなかったと喜んでいても意味が無いのです。
負債から免れるためには、相続放棄するか、負債の遺産分割結果を債権者に認めさせるかの方法しかありません。
これらの手続きを失念すると、あなたは負債を相続してしまったことになります。知らないうちに。

法定単純承認の理解不足

法定単純承認も、過去のブログ(相続の手引き9参照)で説明しましたが、
法律を知らないと、知らず知らずのうちに相続放棄が認められない事項をしてしまう可能性があります。
この単純承認にあたるかあたらないかの線引きは、相当の法律知識を要する判断が必要となります。
相続放棄をしたら、その後は相続財産とは距離を置くようにするのが無難でしょう。

相続放棄は自分だけの問題ではない

相続放棄の手続きも無事終わり、あなたは安心しているかもしれません。
しかし被相続人が残した負債が、それで消えてしまった訳ではありません。
もしあなたの他に同順位の相続人がいれば、負債はあなた以外の相続人で負担することになります。
あなたが相続放棄した結果、あなた以外の相続人が負担しなければならない負債割合が増えるでしょう。

同順位の相続人があなた一人、又は同順位の相続人全員が相続放棄した場合、相続は次順位の相続人に移ります。
次順位以降の相続人も、あなたと同じ相続放棄の判断を迫られることになります。
熟慮期間の3か月は変わりません、あなたが相続放棄にかけた時間だけ、次順位の相続人の熟慮期間は短くなっていることでしょう。
このように、自分が相続放棄しても、他の相続人に影響が及ぶことを認識して検討する必要があります。

相続放棄しても残る問題

あなたが相続放棄をしても、次の相続人(あるいは相続財産管理人)が決まるまでは、相続財産を管理する義務は残ります。
不動産や金銭債権、もちろん負債も含む相続財産を保全して、次のしかるべき管理者に引き継ぐ必要があります。
このことも忘れられがちなことです、注意して下さい。

民法940条
相続放棄をした者は、その放棄によって相続人となった者が相続財産の管理を始めることができるまで自己の財産におけるのと同一の注意をもって、その財産の管理を継続しなければならない。

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